高齢になってもインプラント治療をやってもらえるかどうか不安に思っていませんか?実は、インプラント治療をする人は年々増加しており、厚生労働省によると50歳代で始める人が多くピークは60〜70歳代なのです。※
いつまでも健康でいるためには、中高年から高齢にかけてのインプラント治療は必要です。今回は、インプラントと健康寿命について、科学的データを織り交ぜながら解説します。
※「平成28年歯科疾患実態調査 補綴物の装着の有無と各補綴物の装着者の割合」参照
目次
1.歯は健康寿命を左右する大事なもの
近年、健康寿命において「歯」の重要性がとても注目されています。
ものを噛むというのは当たり前の行為のようでいて、実はとても大切です。身体を維持するには栄養が必要ですが、食べ物の栄養を取り込むには、まず噛んで柔らかくし、砕いて小さくしなければなりません。歯はいわば、栄養の取り込み口ともいえるのです。
幸い、現代ではインプラントという治療法があるので、自分の歯を失ってしまっても、噛む機能を低下させずに済むことができます。
インプラントでなくてもブリッジや入れ歯もあるのでは?という声も聞こえてきそうですが、それは後ほど詳しくご説明しますね。
1-1.超高齢化社会と健康寿命
現代ではどんどん寿命が伸び、数年もすれば大げさではなく人生100年時代がやってくるでしょう。
総務省統計局によると、2025年には65歳以上の人は3000万人を超えると予測されており、人口が減少傾向にあっても総人口の約40%という計算になります。
そんな中で、いつまでも若々しくいられるかどうかは、「食べものを噛めるかどうか」にかかっているのです。
1-2.咀嚼と身体機能は切っても切れない関係
「咀嚼=食物を細かくなるまでよく噛むこと」は、身体の機能を保つことと密接な関係があります。
人間は年をとると自然に内蔵、骨、血管など、身体のいろいろな機能が衰えていきますが、中には「本当に80代!?」とビックリするようなご高齢の方もいらっしゃいますよね。
よく聞くと、皆さん一様にしっかりとよく噛んで食事をしていることが分かります。
身体は、取り込んだ栄養によって維持されます。そして、栄養を取り込むにはまず、食べ物を消化しやすいように細かく砕かなければなりません。
しかし、歯が欠損したり顎が弱って強く噛めなかったりすると、消化不良を起こして栄養が取り込めません。
というより、そもそも硬いものや食べづらいものを食べる意欲がなってしまいます。
すると、栄養バランスが崩れてメタボや病気になりやすくなり、運動機能も低下してしまうのです。
以下は、噛む力と健康を示したグラフです。オーラル・フレイルとは口腔虚弱、サルコペニアとは筋肉量や筋力の低下のことです。
日本口腔インプラント学会誌より引用
”ライフステージにおいて、オーラル・フレイルを経てフレイル状態に陥るか否かで健康軌道が異なる。高齢社会では口腔の健康を通して全身健康を維持することが歯科に期待されている。”
(萩原芳幸「高齢者・有病者に対するインプラント治療を再考する:フレイル(Frailty)を認識した歯科治療のパラダイムシフト 東京歯医師会誌2016」より)
このように、残存歯数の低下と全身リスク、フレイル(身体の虚弱)はとても関係していることが分かります。
2.インプラントの健康寿命に対するメリット
では、インプラントが健康寿命にどんなメリットがあるのか、具体的に説明していきますね。
2-1.インプラントは入れ歯より咀嚼力が強い
歯を失った場合の治療には、インプラントの他に入れ歯や差し歯、ブリッジなどの方法があります。
しかし、入れ歯や差し歯などは、経済的なメリットがある反面、噛む力に関してはかなり低下してしまうというデメリットがあります。
可撤性義歯、オーバーデンチャーインプラント、固定式のインプラントを比べた食品粉砕力の調査では、入れ歯が約20%、オーバーデンチャーが約40%、インプラントが約65%強という結果になりました。
※補足:可撤性義歯=入れ歯、オーバーデンチャーインプラント=数本のインプラントで全体の入れ歯を支える治療法、固定式のインプラント=通常のインプラント
(Gonçalves TM, Campos CH, Gonçalves GM, et al. Mastication improvement after partial implant-supported prosthesis use. J Dent Res 2013;92(12 Suppl):189S─ 194S.参照)
インプラントは他の義歯に比べると噛む力が強く、自分の歯とほとんど遜色なく使えます。
インプラントは骨に直接埋入しているので、しっかりと固定されて自分の身体の一部のように使うことができるからです。
2-2.インプラントは手入れが簡単
インプラントは手入れが簡単というメリットもあります。
入れ歯など取り外しができるものは、毎日洗ったり洗浄剤につけ置きしたりする手間がかかりますよね。しかし、インプラントはほかの自分の歯と一緒に歯みがきや歯間ケアをするだけで済みます。
毎日の歯みがき以上に何かをすることはなく、3ヶ月〜半年に一度程度、歯科でチェックもすればほぼ万全といえるでしょう。
ちなみに、歯科でのチェックでは、インプラントや口内のチェックの他、専用機器や薬剤による徹底したクリーニングも行います。
数ヶ月に一度、歯科で口内を汚れゼロにリセットすることで、インプラントの寿命を伸ばします。
3.インプラント治療を始めるときの注意
中年や壮年の方も、いずれは高齢になります。インプラント治療をするには、将来のことも考えておくのがおすすめです。
3-1.取り扱いの多いインプラントメーカーであること
まずは、取り扱いの多いインプラントメーカーであることです。将来引っ越しなどをしても、どこの歯科医院でも取り扱っているようなメーカーであれば、修理や上部構造を交換するのも簡単です。
インプラントの構造をご存じの方もいらっしゃると思いますが、インプラントはインプラント体・接着部分・上部構造(人工歯)のパーツからなっています。それぞれのメーカーごとや商品ごとにパーツの規格が異なるので、どの歯科医院でも修理できるわけではありません。
もしも入院するようなことになった場合でも、できるだけ取り扱いの多いインプラントであれば、歯科医師やメーカーと相談もしやすいでしょう。
当院では、歯科医療総合メーカーのGC社のインプラントを使用しています。GC社は日本国内30%のトップシェアを誇る、信頼できるメーカーです。
開発から製造まで一貫して国内で行っており、精度の高さや様々な状態のお口に対応できる柔軟性があります。
3-2.介護者や家族とインプラント治療のタイミングを決めておく
高齢になると、認知症の問題が出てくる方が多いです。ご自分がそうなるとは考えたくはないと思いますが、やはり可能性がゼロとはいい切れません。歯についてご家族や介護者と相談しておくのをおすすめします。
具体的にはインプラント治療をいつ頃するかです。インプラント治療には、検査、外科手術、治療後の通院などがあります。人によっては造骨治療が必要な方もいらっしゃいます。
持病などをお持ちの方は、内科との連携や、より綿密な治療計画なども必要です。ご本人の他にも家族や介護者など、しっかりと治療内容を把握できる人がいるのが望ましいです。
3-3.要介護度が進んだ場合を想定しておく
インプラント治療をしてから要介護度が進んだ場合のことも、想定しておきましょう。
インプラント治療には、最低でも年に2回程度の定期検診が必要です。インプラントはインプラント周囲炎という歯周病になりやすいためです。
インプラント周囲炎になってしまうと、せっかく治療してもインプラントが抜け落ちてしまうことがあります。
通院の際に付き添う人の確保や、通院に使う交通などを考えておきましょう。
インプラントでよく噛んで、いつまでも健康でいよう!
インプラントは高齢に近づくほど選択する方が多い治療法です。自分の骨に埋入するので、入れ歯やブリッジよりもしっかりとものを噛むことができます。
「インプラントにしてよかった」というお声をいただくと、私どもも本当にやりがいを感じます。
咀嚼は健康維持の基本です。歯を失ったなら咀嚼力の強いインプラントがおすすめです。何でも食べてしっかりと栄養をとり、いつまでも丈夫な身体でいたいものですね。
- ◆この記事のまとめ
- 1.歯は健康寿命を大きく左右する
- 2.咀嚼ができないと栄養不足になり内蔵や身体機能が衰える
- 3.インプラントは他の治療と比べて咀嚼力が強い
- 4.インプラントは手入れが簡単
- 5.3ヶ月〜半年ごと程度の定期検診を受ける
- 6.取り扱いの多いインプラントメーカーにする
- 7.将来を見据えて要介護者や家族と相談しておく