一時期「フッ素はインプラントによくない」という噂が世間に広まり、患者さんからも「フッ素入りの歯みがきは使わないほうがいいんですか?」としばしば質問されることがありました。
インプラントにとって、メンテナンスは重要な問題です。今インプラントを利用している方や、これからインプラントを考える方にとっては気になることでしょう。
そこで、今回はデータや研究発表などを元にして、できるだけ客観的にインプラントにおけるフッ素への影響についてご説明します。
目次
フッ素がインプラントに影響があると言われている理由
2016年11月、フッ素研究会にて次のような発表がありました。
純チタンやチタン合金の試験片を各種の歯磨剤やフッ素塗布剤などに浸漬した試験の結果、「9000ppm*の以上の高濃度フッ素を含有するフッ素塗布剤では著しいチタンの腐食が認められ、pHと溶存酸素濃度が低い口腔内環境では、さらにチタンの腐食が進むとされました(ConsumaerNet.Jpより引用)
要するに、インプラント体の材料となるチタンやチタン合金などが、高濃度フッ素で腐食したということです。
ただし、こちらのサイトでは2017年まで9000ppmを誤って900ppmと掲載していたとおわびの記載がありました。9000と900では10倍もの差があり、かなり違ってきますね。
結論。フッ素入り歯みがきはインプラントに使用していい
上記の研究を受けて、日本口腔衛生学会では、「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」という声明を発表しました。
内容をかいつまんで説明すると、人を対象とした調査ではこれまでリスクが報告されたことがなく、1000ppmを超えるフッ素濃度でもお口の中の唾液などで薄まるので問題ないといっています。
実際に人がフッ化物配合歯磨剤を利用した場合、フッ化物イオン濃度が 1000ppm を超える歯磨剤であっても唾液で希釈され、ブラッシング時の唾液中フッ化物イオン濃度は 200~300ppm 程度に低下しており 26)、ブラッシング直後には数十 ppm にまで低下していることが示されており 26, 27)、プラーク中のフッ化物イオン濃度に至っては 2ppm 以下と極めて低い 27, 28)。人の口腔内におけるフッ化物濃度や pH を考慮すると、日本で一般に利用されている中性・弱酸性のフッ化物イオン濃度 1,000 ppm 以下のフッ化物配合歯磨剤のインプラント周囲炎のリスクを誇大に危険視することは誤りであろう。(「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」より
そもそも、フッ素研究会が警鐘を鳴らしているのは9000ppmですが、国内では歯磨き粉に使っていいフッ素濃度は、製造販売承認基準によって1500ppm未満と定められています。しかも、高濃度フッ素と謳っている歯磨き粉商品は安全を期してのことなのか、フッ素濃度を1450ppmに留めています(2020年現在)。
つまり、これだけ見ても大騒ぎするのはどうなの?と思ってしまうレベルということです。
フッ素の虫歯・歯周病・インプラント周囲炎予防の効果
フッ素は虫歯予防に効果的というのは一般的に広く知られていますよね。厚生労働省が運営する健康サイトでも、その効果を明記しています。
日常的に適量のフッ化物配合歯磨剤を使って歯磨きをすることにより、口腔内にフッ化物を供給しむし歯を予防します。この歯磨剤は医薬部外品で、効能・効果として「むし歯の発生および進行の予防」の記載が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で認められています。(e-ヘルスネットより)
口内に虫歯や歯周病がなければ、インプラント周囲炎のリスクも下げることができます。では、フッ素は歯にどのように効果があるのかを、もう少し具体的にお伝えしていきましょう。
1.歯の脱灰を防ぐ
歯は、飲食をすると脱灰が起こります。
歯の表面はエナメル質によって細菌から守られています。エナメル質にはリンやカルシウムなどが含まれていますが、飲食物に含まれる酸がリンやカルシウムを溶かしてしまうのです。これが脱灰です。
フッ素はこの脱灰を防ぐ働きがあります。
2.歯の石灰化を助ける
飲食によって脱灰が起こると、酸性に傾いたお口の中を唾液が中和して、唾液中に溶け出したリンやカルシウムが歯に戻ります。これが歯の再石灰化です。
フッ素には歯の再石灰化を促す作用があります。
3.歯をコーティングする
食後にフッ素で歯をコーティングすると、細菌がプラークを作り出すのを防げます。
上記で説明したように、お口の中は脱灰と再石灰化が繰り返されているのですが、お口の中に微量でも食べカスが残っていると、うまく再石灰化が進まずに細菌がプラークを作りだしてしまうのです。
食事後の歯磨きで食べカスを除去し、歯をフッ素でコーティングすれば、虫歯や歯周病のもとになるプラークができるのを防げます。
日本の法律で規定されているフッ素の濃度は、高濃度といっても安全な範囲。フッ素でお口の中をケアすれば、インプラント以外のご自分の歯を、虫歯や歯周病から守ることができます。
口内にプラークがなければ、インプラントの寿命を短くする「インプラント周囲炎」にかかることもありません。
インプラントの本数が多い人もフッ素入りがおすすめ
フッ素によるプラークコントロールの効果があるのは、天然歯だけではありません。
チタン材への虫歯菌の付着予防の研究では、その効果が認められています。
実際のブラッシング条件に加えて細菌のチタン材への付着程度を調べた実験では、フッ化物配合歯磨剤を用いた場合とコントロール群で細菌の付着量に差がないことが示されている 4, 5)。さらに、フッ化物配合歯磨剤はむしろチタン材へのミュータンス菌の付着を抑制しているとの研究は注目すべきである 8)。(「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」より)
また、文献では最後に「天然歯を有する限り、フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」と結んでいます。簡単にいうと、1本でも天然歯があれば、インプラントを使っている人でもフッ素入りの歯磨きを使ったほうがいいですよ、ということですね。
インプラントの方も安心してフッ素入り歯磨き粉をお使いください
フッ素のインプラントへの影響について述べてきましたが、結論としては「フッ素はご自分の歯の虫歯や歯周病を防ぎ、チタンへの付着をも防ぐ」といえます。
フッ素が影響を及ぼすのは日本では使用禁止になっているくらい超高濃度(9000ppm以上)の場合で、今のところ国内で発売されているどの歯磨きを使っても、インプラントに悪影響はありません。
それどころかインプラント周囲炎を予防するので、ぜひお使いになることをおすすめします。
- ◆この記事のまとめ
- 1.フッ素がチタンを腐食するのは9000ppm以上
- 2.日本で販売されている高濃度フッ素は1500ppm未満
- 3.フッ素は歯の脱灰と再石灰化を助ける
- 4.フッ素は虫歯・歯周病・インプラント周囲炎を予防する
- 5.フッ素はチタンに虫歯菌が付着するのを防ぐ
- 5.結論。フッ素入り歯磨き粉はインプラントにも良い影響を及ぼす