50代60代を過ぎると、自分の歯がだんだん少なくなり、入れ歯やブリッジ、インプラントにする方が増えます。しかし、本当は誰でも自分の歯でご飯を食べたいはず。
入れ歯やブリッジは毎日のお手入れが大変ですし、インプラントはまあまあ高額です。当院でもインプラント治療をしていますが、インプラントは最終手段だと思っています。歯科医師としてはできればインプラント患者が減ってほしいというのが本音です。
そこで、ここでは自分の歯を残すための予防歯科という考え方について、ご紹介していきます。
目次
歯の6つの役割
まずは、そもそもの歯の役割について、考えてみましょう。
歯は食べ物を食べるためだけのものではありません。
1.食べ物を噛む
歯の機能でまず大事なことは、食べ物を噛むということですね。
前歯で食べ物をちぎって食べやすい大きさにし、奥歯ですりつぶして飲み込みやすくします。もちろん、消化しやすい大きさにすることも重要です。
前歯と奥歯、それに中間の歯どれもが欠けていてもいけません。例えば、右奥歯がなくなってしまった場合、左奥歯ばかりで噛むようになります。すると、左奥歯は酷使されてダメージを受けてしまいますし、なくなった歯のスペースを埋めるために、だんだん歯列全体が傾いてしまうのです。
2.味覚を味わう
”歯ごたえ””噛みごたえ”というように、歯は味覚を味わう機能も補います。
「サクッ」「パリッ」という音や歯ごたえを感じることも食べ物をより美味しく食べるために一役買っています。
3.異物をみつける
食べ物に異物が入っていると、歯の感触が変わりますね。小骨や小石などが入っていた場合、歯の感触によって異物と感じることができ、体内に入るのを防ぎます。
4.発音を補助する
歯がないと、うまく発音をすることができません。舌が歯の裏に当たって成立する発音が多いからです。
いわゆる歯抜けの状態だと、サ行・タ行などが発音しにくくなります。
5.力を加減する
頑張る時、力を瞬発的に入れる時に歯を食いしばりますね。
歯は全身の力を出す時の、力の伝達を加減する働きもあります。
6.身体のバランスを支える
歯は顎骨から生えていますが、顎骨は全身の左右のバランスを取るのにとても重要な場所です。
もしも、顎骨のバランスが崩れてしまうと、全身も歪みが生じて肩こり・腰痛・頭痛・姿勢の歪みなど、様々な弊害が出てしまいます。
歯列は顎骨のバランスに大きく影響するので、歯は体のバランスを保つのに必要です。
歯がなくなる原因
加齢が進むにつれて、歯がなくなるのは当たり前という考え方が浸透しています。確かに、家と同じで築年数が多くなれば老朽化が進んで傷む箇所も出てくるでしょう。
歯も、歯茎下がりなどが起こってくるのですが、それ以外にも歯がなくなる原因があります。
虫歯治療を繰り返すと歯がなくなっていく
歯がなくなる原因で多いのが、虫歯治療の繰り返しと歯周病です。
虫歯治療というのは、虫歯の部分を削って取り除き、被せものなどをするという方法が一般的です。しかし、被せものは劣化することがあり、歯と被せものとの間に隙間が空いてきます。虫歯治療で悪循環になりがちな流れは次のようになります。
- ・虫歯ができる
- ↓虫歯部分を削る
- ↓小さな被せものをする
- ↓隙間ができる
- ↓隙間から虫歯菌が入り込む
- ↓さらに虫歯部分を削る
- ↓虫歯が神経に達する
- ↓大きな被せものをする
- ↓神経を抜いたため歯の根が弱る
- ・最終的に歯が抜けてしまう
このような悪循環に陥らないためにも、毎日のブラッシングで汚れを除去することはとても重要です。
大人の半数以上が罹患している歯周病
もうひとつ重要なのが、歯周病です。歯周病は、大人の約半数がかかっているといわれています。歯周病は国民病と言われているほどです。
歯周病は、歯茎に炎症を起こしながら毒素で溶かし、歯と歯茎の間の奥へ侵入していきます。
恐ろしいことに、歯周病は歯茎や歯だけでなく、骨も溶かしてしまいます。歯茎から血管に入ると塊に変化して動脈硬化まで起こす、非常にやっかいなものです。
歯周病は感染病なので、隣の歯もダメにしてしまう恐ろしい病気です。そうしてどんどん歯が失われてしまいます。
現代の歯科医療は「できるだけ自分の歯を残す」
歯への概念は、ここ数年で劇的に変わってきています。今までは虫歯になったら治療するというのが一般的でしたが、今では虫歯にならないようにするという考え方がメインになりつつあります。
予防歯科とは、「虫歯や歯周病を予防して、高齢になってもできるだけ自分の歯を残す」という考え方です。
日本歯科医師会では8020運動といって、80歳まで20本の歯を残そうということを推進しています。
自分の歯を残すための方法
自分の歯をできるだけ残すには、2つのケアが重要です。
- ・毎日のセルフケア
- ・歯科医院で受けるプロケア
実際、どんなことをするのか、詳しく説明していきますね。
毎日のセルフケア
毎日のセルフケアとは、歯磨きや歯間ブラシなどを使ったオーラルケアです。
毎食後の歯磨きは基本です。また、就寝中は細菌がもっとも増える時間帯なので、寝る前にはかならず歯を磨き、時間をかけて丁寧にするのがおすすめです。
ブラッシングに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスも使いましょう。歯ブラシだけでは、歯の汚れの半分程度しか落とせません。歯と歯の間をしっかりとケアすることで、歯垢を除去することも大切です。
歯科医院で受けるプロケア
のセルフケアに加えて重要なのが、歯科医院で受けるプロケアです。歯のプロによる掃除というわけです。
プロケアでは、自分では取れない歯石の除去や、歯科医院でしか取り扱えない高濃度の薬剤で殺菌します。
季節ごとなどに定期的にプロケアを受けることで、汚れのない歯にリセットすることができるのです。
歯がなくなってしまったら”インプラント”がおすすめ
できるだけ歯を残すためのセルフケアとプロケアは重要ですが、すでに歯がなくなってしまった場合には、インプラントがおすすめです。
入れ歯やブリッジという選択もありますが、これらは以下のようなデメリットがあります。
- ・外れやすい
- ・合わなくなると痛い
- ・寿命が短い
- ・金属が見えてしまう
- ・バネをかけている健康な歯が弱る
入れ歯やブリッジもケアを徹底して大切に使えば、長くもつこともあります。しかし、噛む力が弱く食べられないものが出てくる・残留歯が弱ってしまうという面もあり、最近ではインプラントを希望される方が増えています。
インプラントのメリット
インプラントのメリットは、なんといっても自分の歯のように使えることです。
さきほどお話した「歯の役割」にあったような以下のようなことをクリアできます。
- ・なんでも自分の歯のように噛める
- ・入れ歯などと違い食べ物の味が分かる
- ・自分の歯と遜色ない美しさ
インプラントにする際の注意点
インプラントは天然の歯と違い、血液や神経が通っていません。血管や神経が通っていれば、自然治癒力や免疫力が働きますが、そうでない場合は病気になりやすくなります。
インプラントの大敵は、インプラント周囲炎という歯周病です。しかし、神経が通っていないので傷みを感じることができず、病気になっても気づくのが遅くなります。
インプラント周囲炎にならないようにするには、通常の予防歯科と同様に、毎日のセルフケアとプロケアが必要です。
インプラントが抜け落ちると、再び入れられないことがあります。
インプラントはいわば最後の砦。生涯食事を美味しく楽しむためにも、しっかりと予防しましょう。
毎日のセルフケアと定期的なプロケアで歯を大切に
年をとってからも、何でも美味しく食べられるというのはとても重要なことです。特に、高齢になると若い頃に比べて身体の自由がきかなくなって活動範囲も狭まります。そんな状況の中で、食事はなによりの楽しみの一つになるという方が多いのです。
噛むということは、全身の健康を維持する上で、とても重要です。インプラントは噛む力が天然歯と同じ。つまり、何でも美味しく食べられるという歯の役割を担ってくれるのです。インプラントにしてからも、セルフケアとプロケアは重要というに変わりありません。毎日のセルフケアと定期的なプロケアを受けることで、噛む力を保存しましょう。
- ◆この記事のまとめ
- 1. 歯の役割は噛むだけでなく、発音や身体バランスに関係する
- 2. 歯がなくなる原因は虫歯と歯周病
- 3. 現代の歯科医療の中心は、できるだけ自分の歯を残すこと
- 4. 歯を残すにはセルフケアとプロケアという予防歯科が重要
- 5. 歯がなくなってしまったときはインプラントがおすすめ
- 6. インプラントも予防歯科が重要