インプラント治療では、CT機器で撮影したデータを元に診断することがとても重要です。
ただ、「どうしてレントゲン撮影とCT撮影の両方が必要なの?」「撮影を増やして治療費を高くしているだけなのでは?」と思っている方もいるでしょう。
レントゲンとCTとでは、役割が大きく異なります。ここでは、それぞれの役割について説明し、CT検査の必要性についてご紹介していきます。
目次
歯科用CTとは?
CTとは、身体を断面的に撮影して画像に残せる装置のことです。X線の一種で、X線とコンピューターを組み合わせて高度な撮影ができます。CTには医療用と歯科用があり、歯科用はより鮮明な画像で見ることができるものです。
機械自体は医療用に比べて大がかりなものではありません。医療用CTは、脳波や内臓を調べるので寝た状態で撮影しますが、歯科の場合は立ったまま、あるいは座ったままで撮影します。
患部を立体的に撮影することができるので、平面的な情報では得られない様々な詳細情報を得ることができます。
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インプラントを埋め込むために必要なこと
CTとレントゲンの違いを説明する前に、インプラント治療で大切なことをお話しておきましょう。
インプラントを骨に埋め込む際に必要なのは、以下の3つです。
- ・骨の幅
- ・骨の高さ
- ・両サイドの歯の骨との距離
この3つが把握できていないと、骨の中に確実にインプラントを埋めることができません。
骨の幅
骨の幅は、インプラントの直径に関係します。もし、十分な幅がないのに無理に埋めた場合、インプラントが歯ぐきから透けて見えたり、露出したりする恐れがあります。
骨の高さ
インプラントの長さに関係します。長さが足りない骨に埋入した場合、上顎の上の空洞(上顎洞)に飛び出してしまったり、下顎の神経を破損したりする恐れがあります。
隣の骨との距離
両サイドの歯の骨との距離は、人工歯冠を被せた時に問題となります。被せものが隣の歯に当たらないか、隣もインプラントの場合には、適切な距離があるかなどを確かめるのに必要です。
レントゲン撮影で分かること
レントゲン撮影は、パノラマレントゲンといって上下の歯列全体を平面的に撮影します。
骨の長さ
パノラマレントゲン画像で分かるのは、骨でいうと主に長さです。頭蓋骨の大きさが人によって違うように、骨の高さは個人個人違います。ですので、あご骨の高さを知ることは重要です。
骨の長さが全体的に短ければ、短いインプラントを用意しなければなりません。
虫歯や歯周病、治療跡
レントゲン画像でもう一つ重要なのが、歯の病気の状態が分かるということです。
インプラント治療を始めるには、まず口内の虫歯や歯周病を治療する必要があります。虫歯や歯周病がある状態でインプラントを埋入しても、インプラントが病気にかかってダメになってしまう恐れがあるからです。
パノラマレントゲンでは、現在の虫歯や歯周病の部位や大きさの他、骨が溶けてなくなっている場所、治療跡などが分かります。
CT撮影で分かること
レントゲンでは病気や治療跡など色々な情報を知ることができますが、レントゲンだけでは不十分な面があります。
骨の幅
CTでは立体的・3次元で撮影しますので、骨の幅が分かります。インプラントの太さに対して十分な骨の幅があるかどうか、肉眼で確認するよりも正確な数値を知ることが可能です。
骨の高さ
インプラントを埋入するのに必要な骨の高さは、CT撮影でしか情報を得ることができません。
また、レントゲン画像は拡大されているので、実寸を出すには計算が必要です。しかし、CT画像は実寸で撮影できるため、計算の手間を省きスピーディーに治療を進ませることが可能です。
骨の形態
CT画像はかなり詳細なレベルまで撮影することができるので、骨の状態まで把握することができます。例えば、レントゲンでは映らない骨の深いところの陥没や欠損まで、把握することができるのです。事前にわかっていれば、陥没や欠損している場所を避けてインプラントを埋め込む方向で考えられます。
もしも、骨が不足している部分があれば、骨再生治療をする必要があります。CT撮影では、安全にインプラントを埋入するため、インプラント治療後も安定するために、そういったことも判断することができます。
骨の周辺
骨周辺には、血管や神経も通っています。血管や神経の位置や本数は、場所や人によっても異なります。大体の大きな血管や神経などはあるのですが、人によっては複数の細い血管や神経が走っている場合があるのです。イレギュラーな神経が通っていた場合、レントゲンでは確認できませんが、CTならそういった神経の位置まで把握可能です。
特に下顎は、あご骨のすぐ下にくぼみ(オトガイ)があり、大きな神経や動脈が走っています。筋肉の厚みまで分かるCTで多角的に診断しないと、大量出血や神経麻痺などのトラブルが起こる危険があります。トラブルを防ぐためにも、CT機器で3次元的に画像診断をすることが重要なのです。
CTなしでインプラントを行う場合のリスク
インプラントが普及し始めた1980年頃は、CT機材は開業医院ではまだ導入されていないところがほとんどでした。
そんな中でどうやって治療していたかというと、歯科医師の経験や肉眼での視認に基づく治療です。事前検査では限界があるため、手術時に目視と長年の経験による勘に頼りながら行っていました。インプラントの事故が多発していたのもこの頃です。
現在でも、もちろん豊富な経験と目視は重要です。しかし、事前の検査やCT画面上でシミュレーションをすることで、より安全にインプラントを埋入することができるようになったのです。
また、一般的な歯科治療とインプラント治療は異なります。一般的な歯科治療は歯の治療をメインに行いますが、インプラント治療では解剖学的な深い知識が必要です。
現在の歯科用CTの普及率は約20%程度。もしも、インプラントを治療しようとする歯科医院にCT機器が導入されていない場合、一般的な歯科治療の考え方で行っている可能性があるので注意が必要です。
まとめ
インプラント治療には、CT検査がとても重要だということがおわかりいただけたでしょうか。インプラント治療を受ける際は、CTを導入している歯科医院を選ぶのが懸命です。
インプラント手術を安全に行い、治療後も脱落やグラつきなどのトラブルに遭わないためにも、CT診断をしているところを選びましょう。
- ◆この記事のまとめ
- 1. CTとは歯や顎骨の断面や3次元的に把握できる撮影機器
- 2. インプラント治療に必要なのは、骨の幅・高さ・両サイドとの距離
- 3. レントゲンで分かるのは、歯の長さ・虫歯や歯周病など
- 4. CTでは骨の高さはが分かる
- 5. CTでは骨の形状や骨周辺の細かい状況が分かる