最近ではどんな医療の現場でも「インフォームド・コンセント」という言葉を耳にします。しかし、ふだん医療に接する機会が少なく、インフォームド・コンセントについてよく知らないという方も多いでしょう。
インフォームド・コンセントとは、インプラント治療においてもとても重要な概念です。もし、インプラント治療を受けるなら、知っておいたほうが良いでしょう。
目次
インフォームド・コンセントとは?
インフォームド・コンセントのインフォームド(informed)とは、「情報に基づく・知識のある」という意味です。コンセント(consent)は「同意」の意味です。つまり、インフォームド・コンセントを簡単に言うなら、情報を共有して同意するといった意味になります。
納得診療や説明と同意などと表されることも多く、医師と患者、あるいは医師と患者の家族は対等の立場にあるという観点から、医師が治療方針を分かりやすく説明し、治療を受ける患者が受け入れるかどうかを決めるといったものです。
「説明義務」との違い
よく、医師には説明義務があるといいますね。法的にも治療に関わるすべての医療者は、説明義務があるとされています。
【医療法1条の4第2項】
医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない
説明義務とインフォームド・コンセントの違いは、説明義務の場合、医師側がどんな治療をするのかということを一方的に説明することを指すのに対して、インフォームド・コンセントは患者さんが治療を承諾するかどうかの権利があるということです。
仮に、いくつかの治療方法を提案された場合、患者さんは自分が納得した治療法を選ぶことができます。また、提案された内容に納得できなければ、セカンドオピニオンなどを利用するという選択肢もあります。
▼セカンドオピニオンとは、担当医の治療方針や治療内容を、担当医以外の医師や医療機関に意見を聞くことができるというシステムです。セカンドオピニオンを利用することで、担当医の治療方針や治療法について理解を深めることができ、納得いかなければ別の医療機関に移ることも検討できます。
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インフォームド・コンセントの歴史
インフォームド・コンセントの歴史はアメリカにはじまります。医療ミスがあった時に患者の権利を守るため、民事責任を追求するために生まれたものです。アメリカでは1960年代から、日本では1980年代から広まってきました。
アメリカでは、健常な精神を持つ成人は、自分の体に行われることを決定する権利があるとし、患者さんの同意なしに行う手術などは身体傷害にあたる不法行為とみなしました。その考えから医療倫理として確立したのが、インフォームド・コンセントです。
そもそも日本では「医は仁術」とされ、医師には慈愛の気持ちが重要という考え方が当たり前でした。そのため、医師側にも患者側にも治療に関しては医師に任せておけば間違いないという考えが根底にあったのです。
しかし、札幌ロボトミー事件などいくつかの重大な医療事件があり、日本でも徐々に患者の権利を考える様になってきました。また、医療の技術が進化するとともに価格競争が生まれ、患者さんの幸せや生活の向上よりも利益を追求するところが増え、知識の浅い医師が自分のスキル以上の治療をする悪質なところが出てきたことも関係しているでしょう。
日本と欧米の文化の違いなどから、患者さんの権利に関してはなかなか法律に加えられることはありませんでしたが、2007年、厚生省が検討会で提出した報告書に基づき、先述の医療法1条の4第2項が加えられたのです。
現在、インフォームド・コンセントは和訳は適当でないとする考え方もあり、一般的に広まるにとどまっていますが、世間的な通念として”当たり前”になっていることも事実です。
患者側が治療内容を決定することとは違う
ここで注意したいのが、インフォームド・コンセントは決して患者さんが治療内容を決めて医師がそれに従うということではないということです。
ちょっとややこしいのですが、医師は精密検査をして治療可能な治療内容をいくつか提案します。患者さんはそれを受けて、将来どうなるかということや、治療期間や費用など色々なことと照らし合わせて、選択するという形になります。
ですので、例えば患者さんが「早く終わりたいから最短でお願いします!」と希望しても、診断結果によっては骨再生治療が必要になり治療期間が長くなるということもあるのです。
インプラント治療とインフォームド・コンセント
インプラントは、機能的にも審美的にも自分の歯のように回復できるので、患者さんの期待も大きくなります。
しかし、インプラント治療は一般的な歯科治療と異なり、自由診療なので費用がかかること、治療期間が長いことなどいくつかの特徴があります。そのため、治療に入る前に十分に話し合い、情報を共有して納得していただいた上で治療を行うことが重要と考えています。
インプラント治療の特徴
インプラント治療には、以下のような特徴があります。治療前には、このようなことを分かりやすく、十分に説明しております。
- ・外科手術が必要である
- ・治療期間は4ヶ月から1年程度かかることがある
- ・全身疾患がある場合は、内科医との相談が必要
- ・骨量が足りない場合は、造骨治療を行う必要がある
インプラント治療で知っておいたほうがいいこと
インプラント治療は外科手術で行います。他の手術も同様ですが、100%の成功をお約束できるというわけではありません。そのため、万が一治療が失敗した場合はどのような対応を取るのか、その際の費用はどうするのかといった説明も医師として欠かせません。
とはいっても、インプラント治療の成功率はとても高く、ある学術記事によると約97%とされています。
「歯周病患者に対する骨接合型インプラントの治療成績に関する臨床的研究(難波智美)」より引用
当院の記事でも、インプラントの安全性について述べているものがありますので、よろしければご覧くださいね。
インプラントとインフォームド・コンセントのまとめ
インフォームド・コンセントとは、医師と患者さんは対等であり、両者同意の上で治療を進めていくという考え方です。特にインプラント治療に関しては、高度で難しい技術になりますので、患者さんにもしっかりとご納得いただきたいと思っています。
もしも不安なことや分からないことがあれば、お気軽にお聞きください。分かるまでご説明いたします。
- ◆この記事のまとめ
- 1. インフォームド・コンセントとは情報を共有して同意するという意味
- 2. インフォームド・コンセントは医療倫理の概念
- 3. 説明義務とは少し意味合いが違う
- 4. インプラント治療ではインフォームド・コンセントが重要
- 5. インプラントの特徴やデメリットを説明し、同意を得た上で治療を行う